野球世界一を決める国際大会「World Baseball Classic(ワールド・ベースボール・クラシック)」。本来であれば2021年3月に開催されるはずだった第5回WBCは、突如として表舞台から姿を消し、2年の空白期間を経て2023年開催へと変更されました。侍ジャパンが劇的な世界一を奪還した2023年大会の大熱狂を知るファンの中にも、「そういえば2021年大会はどうして開催されなかったのか」と疑問を持つ方が少なくありません。
当時、世界中を巻き込んだパンデミックの混乱、米メジャーリーグ機構(MLB)と選手会の労使対立、そして予選ラウンドの中断など、中止・延期の裏側には複雑なスポーツビジネスの力学が働いていました。2026年大会を迎えた現在だからこそ見えてくる、WBC 2021中止・延期の真相と侍ジャパン体制移行の知られざるドラマを徹底検証します。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:2021年3月に予定されていた第5回WBCは、新型コロナウイルスの世界的感染拡大と2020年予選ラウンドの中断により、2020年5月に米メディアおよびMLB関係者を通じて開催見送りが確定。
- 要点2:MLB公式戦の大幅短縮(60試合制)や東京五輪の延期、MLB労使協定の改定協議が重なり、MLB選手の派遣調整や巨額の興行リスク管理が不可能になったことが決定打となった。
- 要点3:この2年間の延期により稲葉篤紀監督から栗山英樹監督への体制移行が実現し、大谷翔平やダルビッシュ有らを中心とする2023年侍ジャパンの世界一奪還への布石となった。
【真相究明】2021年WBCはなぜ中止・延期されたのか?公式発表とコロナ禍の決定打
第5回ワールド・ベースボール・クラシックは、当初2021年3月9日〜23日の日程で、日本(東京ドーム)、台湾(台中)、アメリカ(マイアミ、フェニックス)の3カ国4会場で開催される計画が進められていました。本戦出場枠も前回の16カ国から20カ国へ拡大されるなど、過去最大規模の大会としてファンの期待を集めていたのです。
しかし、2020年3月に米国アリゾナ州ツーソンで開催予定だったWBC 2021予選ラウンドが、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて突如無期限延期に追い込まれました。当時、MLBスプリングトレーニングが全面中断し、世界各国の入国制限が厳格化。予選に出場予定だった12カ国の選手団の移動すら担保できない事態に陥ったのです。
そして2020年5月、主催団体であるWBCI(ワールド・ベースボール・クラシック・インク)およびMLB関係者の取材により、「2021年大会の中止と2023年への開催時期変更」が報じられました。公式発表の裏付けとなった最大の理由は、単なる感染防止対策にとどまらず、以下のような複合的な興行・契約上の限界があったためです。
- グローバル移動と隔離プロトコルの不可能性:20カ国の代表チーム、審判団、大会運営スタッフが大陸間を移動する安全基準を策定できなかった点。
- MLBレギュラーシーズンの過密日程:2020年のMLB公式戦が60試合に圧縮され、2021年のフルシーズン(162試合)完全消化を最優先とする球団オーナー陣の強い意向。
- 無観客・入場制限による巨額赤字リスク:国際放映権とチケット収入に依存する大会収支において、渡航制限下での開催は天文学的な損失を生む構造だった点。
【大会変遷の軌跡】WBC歴代開催年一覧と第5回大会のスケジュール再編データ
本来は4年周期で開催されてきたWBCの歴史において、2017年大会から2023年大会までの「6年間」の空白は歴代最長となりました。大会ごとの開催枠組みと延期のインパクトを客観的なデータで比較します。
| 大会回数 / 開催年 | 参加国数・本戦日程 | 主な出来事・開催状況 | 編集部の見解・評価 |
|---|---|---|---|
| 第1回(2006年) | 16カ国(3月開催) | 日本が初代王者。王貞治監督体制 | 野球の国際化に向けた記念碑的大会 |
| 第2回(2009年) | 16カ国(3月開催) | 日本が連覇達成。原辰徳監督体制 | 日韓戦の激闘などでアジア圏の熱狂が定着 |
| 第3回(2013年) | 16カ国(予選初導入) | ドミニカ共和国が全勝優勝。日本ベスト4 | 4年周期への完全移行と予選システム確立 |
| 第4回(2017年) | 16カ国(3月開催) | 米国が初優勝。日本は小久保体制でベスト4 | 米国の本気度が上がり大会価値が急上昇 |
| 【幻の第5回】(2021年) | 20カ国予定(3月開催予定) | コロナ禍により開催見送り(中止・延期) | 予選中断とMLB労使対立で物理的に断念 |
| 第5回(2023年) | 20カ国(2年延期で実施) | 日本が14年ぶり3度目の優勝(栗山体制) | 過去最高の興行収入・視聴率を記録 |
| 第6回(2026年) | 20カ国(3月開催) | 東京・マイアミ・ヒューストン・サンフアン | 3年周期への特例調整を経て真の世界一決定戦へ |
【予選打ち切りと選手派遣の壁】MLBの思惑と国際野球連盟が直面した現実
2021年大会が延期された背景には、パンデミックだけでなくメジャーリーグ(MLB)機構とMLB選手会(MLBPA)の労使関係という極めてシビアな経済問題が存在していました。
当時、MLBでは2021年12月に現行の労使協定(CBA)失効を控えており、球団経営陣と選手会の間で激しい対立が続いていました。2020年シーズンの無観客開催によって球団側は推定数十億ドルの巨額損失を計上。2021年春の段階で「主力選手をリスクの高い国際大会へ派遣すること」に対する球団オーナー陣の拒否反応は過去最高に達していました。
報道各社の取材データによると、MLB球団幹部の間では「レギュラーシーズンの安定稼働と選手の健康管理が最優先であり、保険適用の不透明なWBCへの選手供出は到底認められない」という空気が支配的でした。国際野球ソフトボール連盟(WBSC)としても、世界トップクラスのメジャーリーガーが出場しない形骸化した大会を開くことはブランド価値を著しく損なうため、2023年への延期を受け入れざるを得ない力学が働いたのです。
【侍ジャパンの空白期】幻の2021年代表選出と栗山英樹監督就任の舞台裏
大会の延期は、日本代表「侍ジャパン」の強化スケジュールにも決定的な転換点をもたらしました。
当時侍ジャパンを率いていたのは、2017年から指揮を執っていた稲葉篤紀監督でした。本来のロードマップでは、2020年夏の東京五輪(これも2021年へ延期)を戦い、その集大成として2021年3月のWBCで世界一を獲るというシナリオが描かれていました。しかし、大会延期により代表編成は完全に白紙化されます。
東京五輪が2021年夏に無観客で開催され、稲葉ジャパンが見事に金メダルを獲得して退任した後、NPB(日本野球機構)強化本部は2023年に延期された第5回WBCに向けた後任監督の人選に直面しました。そこで白羽の矢が立ったのが、北海道日本ハムファイターズを退任したばかりの栗山英樹氏でした。
特番インタビューや当時の関係者証言によると、栗山監督への打診は「2023年春のWBCでMLB所属選手をいかに招集できるか」という命題と直結していました。日本ハム時代に大谷翔平選手を二刀流として育て上げた信頼関係、そしてダルビッシュ有投手をはじめとするメジャーリーガーとの対話力を期待されての抜擢でした。もし2021年大会が通常通り開催されていた場合、大谷翔平やダルビッシュ有がフル稼働する「2023年のドリームチーム」は誕生していなかった可能性が極めて高いのです。
一般に知られていない盲点とネットの誤解
ネット上のQ&AサイトやSNSでは、WBC 2021の中止理由について一部で事実と異なる憶測が語られることがあります。取材に基づく客観的事実から、主要な誤解を整理します。
- 誤解1:「東京五輪と日程が重なったから中止された?」
→ 事実ではありません。WBCは毎年「3月」、東京五輪は「7〜8月」開催であり、直接の日程重複はありませんでした。ただし、2021年に五輪がスライドしたことで、NPB選手への過密日程負担を懸念する声があったことは事実です。延期の主因はあくまで世界的な渡航制限とMLB予選の中断です。 - 誤解2:「WBC自体が不人気で打ち切られそうだった?」
→ 正反対です。2017年大会は過去最高の観客動員と視聴率を記録しており、主催者側は収益拡大のために2021年大会から「20カ国への拡大」を決定していました。興行価値が高かったからこそ、不完全な状態での強行開催を避け、満員の観客が見込める2023年へ延期する判断が下されました。
【プロの結論】国際スポーツビジネスの構造リスクと2026年大会への教訓
国際スポーツ組織論の観点から見ると、WBC 2021の延期劇は「プロリーグ(MLB)が興行権と選手保有権を完全に握る大会構造の脆弱性と強靭さ」を浮き彫りにしました。
サッカーのFIFAワールドカップと異なり、WBCは国際統括団体(WBSC)ではなく民間営利企業(MLB・MLB選手会)が主導するイベントです。この構造は、パンデミックのような有事において「クラブ側の経済的都合が代表戦より優先される」というリスクを孕む一方、2023年大会のように「満を持して最高峰の選手を揃え、巨額の利益を生み出すタイミングまで戦略的に待つことができる」という柔軟性も示しました。
2026年3月に開催される第6回WBCは、2023年大会から「3年スパン」という変則的な周期で設定されました。これは2021年の空白を埋め、本来の偶数年周期へスケジュールを正常化させるための布石です。不測の事態に翻弄された2021年の教訓は、各国の代表選考プロセスや保険制度の整備、リスクマネジメントの高度化という形で確実に結実しています。
【world baseball classic 2021】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:WBC 2021の予選はどうなったのですか?
A1:2020年3月にアリゾナ州で予定されていた予選ラウンドは延期され、最終的に2022年9月〜10月にドイツ(レーゲンスブルク)とパナマ(パナマシティ)で代替開催されました。この予選を勝ち抜いたイギリス、チェコ、パナマ、ニカラグアの4チームが2023年本戦への切符を手にしました。
Q2:もし2021年に開催されていたら、大谷翔平選手は出場していましたか?
A2:当時のコンディションを考慮すると、出場は極めて困難だったと見られています。大谷選手は2018年末に右肘靭帯再建手術(トミー・ジョン手術)を受け、2020年シーズンは投球を再開したものの右屈曲回内筋群の炎症でわずか2試合の登板にとどまっていました。完全復活を遂げた「2021年レギュラーシーズン(MVP獲得)」の前段となる2021年3月の段階では、球団側が出場を許可した可能性は極めて低いと評価されています。
Q3:次回のWBCはいつ開催されますか?
A3:第6回大会となる次回WBCは、2026年3月に開催されます。プール戦の舞台は東京(日本・東京ドーム)、サンフアン(プエルトリコ)、ヒューストンおよびマイアミ(アメリカ)の4都市となっており、準決勝・決勝はマイアミのローンデポ・パークで実施されます。
まとめ:空白の2年間がもたらした野球界の進化と2026年への展望
2021年に予定されていた第5回WBCの中止・延期は、当時の野球界にとって大きな痛手であり、世界中のファンを落胆させました。しかし、パンデミックとMLBの過密日程という不可抗力の中で下された「2年の延期」という決断は、結果として大会の価値をかつてない高みへと押し上げることになりました。
2年間の準備期間があったからこそ、大谷翔平選手はメジャーMVPの看板を背負って参戦でき、ダルビッシュ有投手は宮崎キャンプ初日からチームを牽引し、栗山監督による侍ジャパンの奇跡的な結束が生まれました。空白の2021年を乗り越えて紡がれた野球の国際ドラマは、いま2026年大会の新たな熱狂へと受け継がれています。 (出典: world baseball classic 2021(Yahoo!ニュース))